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  • sakura-tokyo

#27 ショートショート その1

「〇〇君の誕生日に大きな花火を打ち上げたいの」

「それをね、ヘリコプターで空から見るの」

バーテンダーに声を掛けようとしていた私は思わず振り返った。


「ちょっと待って」

彼女に言い、私はバーテンダーにライウイスキーを注文した。

カウンターのみの店内は私たちの貸し切り状態となっていた。

マイルス・デイヴィスのトランペットが控えめに歌っている。


ギャングたちの描かれた旧いラベルのボトルが目の前に置かれ、私は彼女に向き直った。

「それはどういうことなのかな?」

彼女は悪戯っぽく笑った。

「大丈夫、もう会いに行かないから」

「最後にお祝いして終わりにしたいの」


カクテルグラスを弄びながら、頬を染め話す彼女の左袖が揺れた。

頬のように染まった左手首には、まだ生々しい赤黒い筋が幾重にも走っていた。

・・・綺麗だな

目を凝らし、何故か私は思った。


「やっぱりよく見えないの?」

彼女は私の覚束ない視線に気づき言った。

「まあね、去年左目の手術をしてから中心がゆがんで見えるんだ」

私は昨年眼底の手術をして以降、残ってしまった後遺症を思った。

「でもまあこれ以上は悪くならないようだし、これで良しとしないとね」


私は彼女の母親に頼まれ病院に行った時のことを思い出していた。

分厚いガラス窓の向こう側で怯えていた彼女の姿が目に浮かんだ。


ホストに貢いだ彼女は夜の店で働き始め精神状態を崩してしまった。

そしてリストカットを繰り返し少しの間入院していた。

それを知った病弱な母親はショックで臥せってしまい、そのまま亡くなってしまった。

少なくない金額の遺産を手に入れた彼女は、借金を清算し私にホスト通いの卒業を誓った。


「そのお金はお母さんの遺産じゃないのか?」

私は当然の疑問を口にした。


「大丈夫、お店に予定を入れたから」

鼻白む私を尻目に彼女は嬉しそうに話し続けた。

「30日間ぶっ通しで働けば何とかなると思う」


「まだ身体も本調子じゃないんだから、せめてぶっ通しはやめよう」

「じゃあ2ヵ月で30日間だったらどう?」

私は彼女の母親を思い浮かべた。

「君の人生だからね、好きにすればいいけれど身体だけは大事にしよう」


「私のけじめなの。ちゃんとお祝いしてあげてからじゃないと先に進めない気がする」

彼女の不安定に泳いだ視線の先を追ってみても、歪んだボトルが見えるだけだった。


彼女に向き直ると、バックバーで控えめに光るボトルたちの煌めきが瞳の中で瞬いていた。

それはほんのりとした狂気を宿し、少しずつ彼女を侵食して行くような気がした。

「大丈夫、私って意外と強いんだから」


そう言って無邪気に笑う彼女は、私の左目の中で少し歪んで笑っていた。



文責

桜栗英人

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