彼女の彼について、私の知っている事はそれほど無い。
日本とオーストリアのハーフでバツイチ。
前妻との間に息子が一人。
彼女と付き合い始めた頃は日本でイベント関連の仕事をしていた。
彼女はそこで知り合ったらしい。
彼女はそのイベント関連の会社で働き、地方を転々としていた。
たまに東京へ来る時は大抵我が家に泊まっていった。
彼女は妻の従姉妹にあたり、おっとりして素朴で飾らない性格だった。
ただちょっとした難病を患っており、定期的に入院しなければならないため定職に就くことは難しかった。
必要な時期だけ登録して働けるその仕事は彼女にとっても都合がよかったようだった。
彼女が泊まりに来るといつも妻の顔が一段明るくなった。
その度に私は少し反省した。
3.11の時も我が家に泊まりに来ていて、当時の私たちは随分その明るさに救われた。
やがてその彼は仕事の拠点をオーストリアに移すことになった。
彼女も彼に付き添いオーストリアに住むようになった。
籍はまだ入れていなかった。
私はお祝いをする時が来るのを楽しみにしていた。
妻は彼女を訪ねてオーストリアへ行くことを楽しみにしていたが、私の仕事の都合でなかなか実現しなかった。
そんな折、知らせが届いた。
仕事中の彼の車がアウトバーンで交通事故・・・。
彼女は異国の地で一人取り残されてしまった。
彼は仕事の都合で、ヨーロッパを色々と行き来していたらしい。
籍を入れていなかったので色々あったらしいが、詳しくは私は知らない。
妻の方が多少知っているようだが聞けなかった。
彼女は帰国して今は実家で暮らしている。
そのちょっとした難病のせいで、体調を崩し視力がかなり落ちていた。
薬を強くすると他の器官にも影響が出るとの事で、現状維持に努めているという。
それでも昨日から我が家に泊まりに来て、楽しそうに笑っていた。
彼女と話をしても本当の気持ちは窺い知ることは出来ない。
想像するしかない。
私にできることは何も無かった。
そういえば、写真を見せてもらうチャンスを逸してしまった。
私は彼の顔も知らなかった。
いずれ訪ねて行くか、お祝いの席で挨拶できればいいと思っていた。
「風が吹けば桶屋が儲かる」
もし、私が時間の都合をつけて妻と一緒に訪ねて行けていたら・・・。
何か変わっただろうか。
いま、彼女は妻と話をしていた。
昔の話、家族の話、笑い声が心地よい。
目を凝らしてみたが、そこにいる筈の彼女に寄り添う彼の姿は見えなかった。
私にできることは何も無い。
少し目を瞑って祈ってみた。
「彼女が幸せになりますように」
「幸せになりますように・・・」
文責
桜栗英人